本年度の研究により、我々は口蓋突起内側縁上皮細胞(MEE細胞)の最終分化能力を解析するための基盤技術となる3種類のin vitro解析システムをほぼ完成することができた。このシステムは、我々が2004年に発表した単一口蓋突起回転浮遊培養法をさらに改良・発展させたものである。その特徴は、これまでの単一口蓋突起回転浮遊培養法ではMEE細胞の最終分化能力にマウス系統(遺伝学的背景)による差異が存在することまでは示唆できるものの、実際にはMEE細胞の最終分化のうち、口蓋突起の癒合に最も重要な上皮-間葉形質転換を証明することがきわめて困難であったのに対して、本年度の研究により開発した新規in vitro解析システムはマウス系統差を超えてMEE細胞の上皮-間葉形質転換を証明することが簡便にできる点である。今なお、MEE細胞の最終分化の過程で上皮-間葉形質転換が起こるか起こらないかが大きな論争となっているが、現在、世界中で主流として用いられているケラチンプロモーターを利用したリポーター遺伝子(lacZ)のコンディショナルノックイン法ではβ-ガラクトシダーゼの安定した発現が得られないこととこれまでに作製・報告されてきた口蓋裂発症モデルマウスの解析には直接利用できないという大きな欠点がある。我々の開発したin vitro解析システムはそれら既存の解析方法の欠点を克服し、口蓋裂発症モデルマウスのMEE細胞の最終分化能力(特に上皮-間葉形質転換を起こす能力)の異常の有無についてマウス個体差と系統差を超えてシングルセルレベルで診断可能であることを、実際にTGFβ2およびTGFβ3遺伝子欠損マウスを用いて実証することに成功した。
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