本研究ではGS細胞(精子幹細胞の長期培養系)というユニークな材料を用い、精子幹細胞の分化能を解析する方法として細胞融合に着目した。GS細胞と種々の細胞とを細胞融合し、そのハイブリッド細胞の増殖能、分化能、表現系およびエピジェネティクス解析によって、精子幹細胞の分化能を調べることを目的とした。Greenマウス由来の細胞とLacZ遺伝子と共にネオマイシン耐性遺伝子を発現するROSA26マウス由来の細胞を用い、細胞融合した細胞を薬剤選択によってクローン化した。GS細胞どうしの細胞融合ではハイブリッド形成を染色体解析によって確認することができたが、その増殖はGS細胞に比べて非常に遅く、そのクローン化および分化能を解析することが困難であった。GS細胞と種々の体細胞との融合細胞の増殖も同様な結果であった。一方、精子幹細胞が起源と考えているmGS細胞(ES細胞と同等の多分化能をもつ生後マウス精巣由来の多能性幹細胞)についても同時に注目し細胞融合を行った結果、胸腺細胞とのハイブリッドのクローン化に成功した。このmGS×胸腺細胞は、mGS細胞様の形態および増殖能を示し、奇形腫形成能をもち、ALP染色、RT-PCRおよびFACS解析ではmGS細胞様の表現系を示した。さらに、通常は発現していない体細胞中の未分化状態を維持する遺伝子が、mGS細胞との融合によって再活性化されることもわかった。これらの結果は、ES細胞がもつ体細胞核の初期化能を細胞融合実験によって証明した過去の報告と一致し、mGS細胞も体細胞核の初期化能をもつことが明らかとなった。さらに、mGS細胞とES細胞との性質を比較する目的で、mGS細胞を用いたノックアウトマウスの作製を試みた結果、その作製に成功し、mGS細胞でも相同組換えによる個体遺伝子改変が可能なことを明らかにした。
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