本研究は肝臓の初期発生過程における肝芽細胞分化と肝芽組織形成の分子機構の一端を明らかにすることを目的とする。前年度までの免疫組織化学的および微細形態学的検討より、細胞間接着に重点を置いて研究を進めることとした。横中隔間充織内を浸潤する肝芽細胞は接着結合を含む細胞間接着装置の構造を保ったまま移動しており、また、接着結合に関与するNカドヘリンを発現している。このNカドヘリンの細胞内局在を明らかにするため、免疫電顕法を試みた。pre-embedding法による免疫電顕法を試みたが、成体の肝組織で通常行っている、マイクロスライサーによる非包埋薄切は、組織の脆弱性のため胚胎では行うことが出来ず、また、凍結切片やパラフィン包埋切片を用いた免疫電顕法では、微細形態の観察に堪えなかった。他の方法を勘案する中で、胚胎全体に免疫組織化学法を行う方法(whole mount immunohistochemistry:WM-IHC)を行った。発現を検討する分子として、Nカドヘリンに加え、タイト結合構成分子で前年度までに発現を明らかにしたZO-1を選び、陽性コントロール(α-フェト蛋白:AFP)・陰性コントロール(ウサギの非特異的IgG)とともに染色を行った。免疫染色終了後の標本上で染色の確認を行い、パラフィン包埋した陽性コントロール標本では肝芽細胞にAFPの染色を確認できた。NカドヘリンおよびZO-1抗体による染色群を微細形態観察したところ、組織の損傷は極めて小さく、微細形態観察に堪える方法であることが明らかとなった。しかし、肝芽細胞にNカドヘリン、ZO-1の有意な染色が得られなかった。これは抗体の組織浸透性と標的分子の抗原性の強度に原因があると考え、来年度は胚胎の化学固定法の再検討などの改良を加えてさらに検討を重ねる予定である。
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