LHRH誘導体は持続的投与することで性腺刺激ホルモン分泌を強く抑制することができるため、既に臨床的には前立腺癌等に対するホルモン治療薬として実用化されている。しかし、LHRH誘導体の持続的投与が直接的な標的細胞である下垂体前葉の性腺刺激ホルモン分泌細胞に与える影響については未だ不明な点が多い。本研究では、このLHRH誘導体の持続投与によって生じる性腺刺激ホルモン産生細胞の変化を微細構造と機能の両面から検討している。 平成18年度には、まずLHRHアゴニストであるLeuprorelinの徐放性製剤投与後さまざまな期間飼育したラットから電顕観察および免疫組織化学法による解析用の標本を系統的に作成し、下垂体前葉の性腺刺激ホルモン産生細胞における分泌穎粒量や性腺刺激ホルモンの局在の変化を免疫組織化学法と形態計測法を用いて解析した。その結果、同細胞内の分泌穎粒の量および大きさは、Leuprorelin徐放性製剤の投与開始1日後から著明に減少し、7日後までに細胞内の分泌穎粒はほぼ枯渇した。その後、28日後までに徐々に分泌顆粒が細胞内に再蓄積されるが対照群と同程度までは回復せず、分泌穎粒の体積率および平均直径は対照群と比較して有意に低かった。また、分泌穎粒の抗LH抗体による標識率は、同剤投与直後は対照群と同程度であったが、投与開始7日後より急激に低下し、以降28日後まで対照群と比較して有意に低いレベルで推移した。以上の所見より、LHRHアゴニストであるLeuprorelinは、投与初期にまずアゴニスト効果によって細胞内の性腺刺激ホルモンを枯渇させ、その後LHRH受容体の不応化を誘導することで性腺刺激ホルモン生合成を強く抑制するというふたつの機序の相乗作用で、同細胞からの性腺刺激ホルモン分泌を強力かつ効率的に抑制することが形態学的に示された。
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