研究概要 |
自己・非自己の認識に関わるT細胞受容体(TCR)の抗原特異性は、主にペプチド結合部位である相補性決定領域3(CDR3)により担われている。近年、胸腺T細胞の分化に伴いそのCDR3の長さに変化(短鎖化)が起きるという興味深い事実が明らかになってきた。しかし、何故そのような変化が起こるのかは不明である。本研究課題では、我々の予備的実験から得られたVβ鎖におけるCDR3の短鎖化をより詳細に解析し、同時にva鎖で同様なCDR3の短鎖化か観察されるかを調べ、CDR3長の短鎖化を引き起こす要因を明らかにする。 本年度は、当初の計画に従い、異なるMHCを有するマウスを用いてTCRβ鎖のCDR3長を網羅的に解析した。C57BL/6(H-2b)、Balb/c(H-2d)およびC.BIOマウス(Balb/cbackground、H-2b)から分離した胸腺T細胞亜群を用いて実施した。その結果から、(1)CD4+CD8+細胞からCD4+CD8-およびCD4+CD8-細胞の分化過程でCDR3長が短くなる、(2)CDR3の短鎖化の程度はVβ鎖間で差がある、(3)相同性の高いVβ鎖では同じ程度の短鎖が起こることを明らかにした(Molecular Immunology,44,2378-2387)。さらに、新たにTCRa鎖におけるCDR3長の解析法を確立するため、遺伝子増幅に必要なva鎖特異的primerのデザインとそのPCR条件を検討した。さらに、少数のサンプルを用いた検討を行い、29種のva鎖primerが適用可能であることが分かった。 次年度は、多数のサンプルを用い、29種のVα鎖すべてについて、胸腺T細胞亜群のCDR3長解析を進める予定。同時に、得られたva鎖およびVβ鎖の詳細なデータからMHCやV segment等の要因がどの程度CDR3の短鎖化に影響するかを分析し、短鎖化を引き起こす要因を推測する。
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