T細胞受容体(TCR)はα鎖とβ鎖から成り、遺伝子再構成後に形成される多様な相補性決定領域3(CDR3)によって、抗原提示細胞上に提示された抗原ペプチドを特異的に認識する。我々は先に胸腺T細胞の分化に伴って、CDR3の長さが短くなる(短鎖化)という興味深い事実を報告している。しかしながら、何故そのような変化が起きるのかよく分かっていない。そこで、本研究ではβ鎖およびα鎖のCDR3長の変化をより詳細、かつ網羅的に解析してCDR3の短鎖化の機序を明らかにした。 異なるMHCを有するコンジェニックマウスを用いたβ鎖の解析から(1)胸腺でCD4+CD8+細胞からCD4+CD8-およびCD4+CD8-細胞の分化過程でCDR3長が短くなる、(2)短鎖化はMHCの影響を受ける、(3)CDR3の短鎖化の程度はVβ鎖間で異なり、相同性の高いVβ鎖では同じであることを明らかにした。さらに、新規に確立したα鎖CDR3長の解析法を用いて29種のVα鎖について解析を行った結果、β鎖のみならずα鎖においてもCDR3の短鎖化が起こる事がはじめて明らかにされた。同時に、Vβ同様にCDR3の短鎖化の程度はVα鎖にも大きく依存することも確認された。 TCR-ペプチドMHCの結晶学的研究からMHCα-ヘリックス上のアミノ酸残基とTCRのV鎖上のアミノ酸残基が適切な配置を取り、相互作用することが抗原認識に重要であることはよく知られている。我々は、V鎖の特定の残基がMHCに対して適切に配位できるTCRのみが「正・負の選択」の過程で選ばれるため、結果的にCDR3の長さが変化すると推測している。TCRペプチドMHCのトポロジーが本来多様なCDR3の長さに影響していることが示された興味深い研究である。
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