研究概要 |
本研究では、ヒト骨芽細胞の培養系を用いて、細胞の金属表面などでの挙動を客観的に解析し、金属表面の生体親和性に関する新しい評価方法を確立することを目的とする。平成18年度は主に以下の二つの項目に関して研究を行い成果をあげた。 1)ヒト骨芽細胞の培養株を用いて、金属材料(チタン)の表面での培養細胞の挙動を、細胞接着と細胞運動の双方から解析し、この結果を英文論文として国際誌に発表した(Li C, et al.,2006)。さらに、細胞の移動速度を制御するシグナル伝達系の解析のため、種々のシグナル伝達系に対する阻害剤や賦活剤をヒト骨芽細胞の培養系に負荷し、その影響を解析した。その結果、ROCK(低分子量Gタンパクの一つであるRhoAによって活性化されるタンパク質リン酸酵素)を阻害することによって細胞の移動が速くなること、逆にIP3キナーゼ(極性を持った細胞の移動を制御するとされる)を阻害することによって細胞の移動が遅くなること、をそれぞれ見いだした。このことから、骨芽細胞の移動には、アクチン系を中心とした細胞骨格の動的な制御が必要であること、さらに移動の方向を制御する機構にはIP3キナーゼが関与すること、が示唆された。 2)ヒト骨芽細胞の一次培養系(市販のものを購入)を用いて、細胞の移動の解析を開始した。一次培養の骨芽細胞は、株化された骨芽細胞とはその形態や細胞運動の様式が大きく異なっているため、1)で開発した手法を直接応用することは難しいと判断し、計測手法の改良を行っている。 この他、本研究で培われた細胞培養や免疫細胞化学の経験を応用して、本研究以外の共同研究でも成果をあげている(Mominoki et al.,2006、Shigemoto et al,2006、Saito et al,2006)。
|