遺伝性難聴の原因の1つであるDFNA17には、MYH9というミオシン重鎖遺伝子が含まれており、そのミオシン重鎖の705番目のアルギニンがヒスチジンに変異していることが報告されている。この変異はATP分解による化学エネルギーが滑り運動の力学エネルギーに変換される重要なドメインであると予想されているSH1ヘリックスにある。本研究では変異ミオシンの構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動法で調べ、野生型と比べた。GFPとBFP蛍光タンパクを遺伝子工学によりミオシンモータードメインの両端につなげ、ATPを添加した後のドメイン間の位置変化を野生型と変異体について蛍光エネルギー移動法で調べた。定常状態の蛍光強度から計算されるドメイン間の位置変化の大きさは野生型と変異体で大きな差はなかった。しかし、25℃で、変異体のドメイン間のATP添加後の位置変化の速度定数は野生型に比べて約30%減少した。また、その活性化エネルギーは変異体が62kJ/mol、野生型が86kJ/molであった。SH1ヘリックスのR689H変異によってATP誘起ドメイン間の位置変化は大きく影響されなかったが、そのコンフォメーション変化の活性化エネルギーは減少することをみつけた。このことはモーターからコンバーターへのカップリングが変異によって弱くなっていることを示唆し、その結果、熱揺動の大きさを大きくし、活性化エネルギーを低くしたと考えられる。
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