研究概要 |
中枢神系の中でも内側視索前野、視床下部腹内側核、および内側扁桃核はその大きさやシナプス結合パターンに性差がみられ、エストロゲンおよびアンドロゲン受容体を含有するニューロンが存在することが知られている。ラットにおいてはフェロモンによる嗅球からの情報および生殖器からの触刺激情報は内側扁桃核に入力し、次に雄では内側視索前野に、雌では視床下部腹内側核に伝えられ、そこからの出力はそれぞれ、延髄あるいは中脳を経て性行動に移される。雌雄マウスの内側扁桃核(MA)および内側視索前野(POA)を含むスライス標本を対象にMAおよびPOAニューロンから細胞内記録を行い、女性ホルモン(17β-estradiol)および男性ホルモン(testosterone)の膜電位およびシナプス電位に対する効果を検討した。 静止膜電位および入力抵抗はMAニューロンでは-68±7 mV,76±46 MΩでPOAニューロンでは-68±10mV,140±113MΩだった。また、活動電位の閾値および振幅はMAニューロンでは-54±4mV,73±7mVでPOAニューロンでは-55±3mV,74±3mVだった。これら静的、動的膜特性に性差はみられなかった。雌雄ともMAニューロンにおいては速い興奮性シナプス後電位(fast EPSP)はグルタミン酸によりAMPA型受容体を介して、速い抑制性シナプス後電位(fast IPSP)はγ-アミノ酪酸(GABA)によりGABA_A受容体を介して発生しており、17β-estradiolの灌流投与でfast EPSPは増強しfast IPSPは抑制された。Testosteroneの灌流投与ではfast EPSPが雄で増強し、雌では抑制された。これは生殖行動につながる刺激入力のレベルで男性ホルモンが作用し、性欲の中枢に対して雄で興奮性の、雌で抑制性の効果を現すものと考えられる。
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