研究概要 |
延髄孤束核(nucleus tractus solitarius, NTS)は、動脈圧受容器よりの脳内terminalであると知られている。NTS内に一酸化窒素(nitric oxide, NO)産生剤を微量注入すると血圧が下降し、一酸化窒素合成酵素(NO synthase, NOS)はNTS丙に存在すると報告されている。研究代表者らにより、NTSに神経型NOS(neuronal NOS, nNOS)のantisense oligonucleotideを微量注入しNTS内でnNOSの遺伝子を分子生物学的に抑制することにより血圧が上昇する事が明らかにされた(Neuro Report, 10:1957-1960,1999)。またNTS内に内皮型NOSの遺伝子導入で血圧が下降すると報告されている。これらより、NOはNTSで循環調節の神経伝達に興奮性に関与することが明らかになった。しかしながら、NOSの遺伝子導入で血圧変化を調べるには慢性実験が必要であり、体内でゲノム情報から作られるタンパク質の機能をすぐに解析することはできない。私達は、in vivoで脳内の特定機能部位へβ-galのタンパク質を直接導入することに既に成功している(Neuroscience Letters,378:18-21,2005)。この方法により、そのタンパク質の機能を急性的に解析することができると予想される。平成18年度はnNOSのタンパク質をvectorとともに、孤束核へ微量注入し、血圧・心拍数・平均血圧の変化を3時間にわたって観察し、注入されたnNOSのタンパク質が機能を果たしているかどうかを調べた。その結果、両側の孤束核へnNOSのタンパク質をvectorとともに微量注入すると、平均血圧はβ-galとvectorのcontrol群と比べ1時間後より有意に下降した(1h:nNOS, 94% of the value at Oh, n=6;β-gal,106%,n=9;P<0.05. 2h:nNOS,89%;β-gal,106%;P<0.01. 3h:nNOS,86%;β-gal,106%;P<0.01)。脳の特定機能核へ導入したタンパク質は機能を発揮していることが判明した。今後、遺伝子治療からさらに進んだタンパク質治療という新しい分野を開拓できるかも知れない。
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