性的に成熟した雄ラットは、雄ラットおよび発情雌ラットの匂いを同時に提示すると発情雌臭に強い選好性を示す。また、正常雄ラットと去勢雄ラットの匂いでは、去勢雄ラットの匂いに対して選好性を示す。このパターンは雌が持つ正常雄に対する選好性とまったく反対であり、性指向性を反映していると考えられ、また、性ホルモンに依存することから、性的動機づけをも反映していると考えられる。われわれは、この嗅覚選好性が嗅上皮から入力される発情雌の化学信号によって引き起こされていることを示したが、その神経回路についてはいまだ不明な点が多い。内側視索前野の破壊は、雄ラットの発情雌に対する選好性も、去勢雄に対する選好性も同時に消失させるが、扁桃体内側核の破壊は、去勢雄に対する選好性のみを消失させる。このことから、去勢雄からの信号は、嗅上皮から主嗅球を経て、いずれかの領域を経由して扁桃体内側核に入り、分界条を介して内側視索前野に入ると考えられる。一方、発情雌の化学信号は、去勢雄の場合と同様に嗅上皮から入力され、最終的に内側視索前野に入るものの、そのプロセスは全く不明である。我々は、扁桃体皮質核の破壊も試みたが、皮質核破壊は性行動時における射精潜時を長くするが、嗅覚選好性にはほとんど影響を与えなかった。本プロジェクトの最終年である平成21年度は、発情雌の匂い刺激が、主嗅球からどの領域を経て内側視索前野に入り、選好性を調節しているかをさらに確定していきたいと考えている。
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