プロスタグランジンI_2(PGI_2)は、その固有の受容体であるIPを介して多彩な生理作用を発揮する。先に我々は、in vivoにおいて内因性PGI_2は圧負荷による心筋細胞肥大と心線維化を抑制することにより、心肥大形成を防御する役割を演じていることを認めた。本研究では、PGI_2の心肥大抑制作用の機序をより詳細に知る目的で、in vitroにおける心筋細胞肥大および非心筋細胞増殖に対するcicaprost(選択的IPアゴニスト)の作用を検討した。心筋細胞肥大の指標として[^<14>C]leucineの取り込みを測定し、非心筋細胞増殖の指標として[^3H]thymidineの取り込みを測定した。野生型マウスから得た非心筋細胞に血小板由来成長因子(PDGF)(5ng/ml)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)(20ng/ml)または血清(0.5%)を作用させると、いずれも非心筋細胞は著しく増殖した。Cicaprost(10^<-5>M)は、PDGFとTNF-αによる非心筋細胞増殖を著明に抑制したが、血清による増殖を抑制しなかった。これは血清による増殖の分子機構が、PDGFやTNF-αとは異なることによると考えられる。また、cicaprost(10^<-5>M)は主要な心筋肥大因子であるcardiotrophin-1(10^<-10>M)による野生型マウスの心筋細胞肥大を抑制しなかった。一方、IP mRNAの発現およびcicaprostによるcAMPレベルの増加は、野生型マウスの心筋細胞より非心筋細胞において顕著であった。非心筋細胞におけるcicaprostの作用は、いずれもIP欠損マウスから得た細胞で消失した。これらの結果、PGI_2は主として非心筋細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。
|