先に我々は、in vivoにおいて内因性プロスタグランジンI_2(PGI_2)は圧負荷による心筋細胞肥大と心線維化を抑制することにより、心肥大形成を防御する役割を演じていることを報告した。今回、PGI_2の心肥大抑制作用の機序をより詳細に知る目的で、in vitroにおける心筋細胞肥大および非心筋細胞増殖に対するcicaprost(選択的IPアゴニスト)の作用を検討した。実験はマウス胎仔から得た心筋細胞および非心筋細胞を培養して行った。非心筋細胞に血小板由来増殖因子(PDGF)を作用させると、非心筋細胞は著しく増殖した。Cicaprostは、この増殖を著明に抑制したが、cardiotrophin-1による心筋細胞肥大を抑制しなかった。次に、心筋細胞と非心筋細胞とのクロストークに対するcicaprostの作用を検討した。非心筋細胞の無血清培養液を心筋細胞に添加すると、心筋細胞の肥大化が認められた。非心筋細胞にPDGFを作用させた後、その培養液を添加した場合は、心筋細胞肥大がさらに顕著となった。しかし、cicaprostとPDGFを併用して非心筋細胞に処理した場合、PDGFによる心筋細胞の肥大化が抑制された。一方、IP mRNAの発現およびcicaprostによるcAMPレベルの増加は、心筋細胞より非心筋細胞において顕著であった。これらの結果、PGI_2は主として非心筋細胞に作用し、その増殖抑制を介して、心筋細胞の肥大化を抑制することが明らかとなった。
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