先に我々は、内因性プロスタグランジン(PG)I_2が圧負荷による心肥大形成を抑制することを明らかにした。逆にPGF_2αは心肥大形成を促進することが報告されており、一連のプロスタノイド産生を抑制する非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の心肥大に対する作用については、不明な点が多い。そこで、寒冷ストレスにより惹起される心肥大に対し、NSAIDsの一種であるアスピリンがいかなる影響を及ぼすかを検討した。実験は、雄性マウスを2群に分け、Cold群は5℃で、Warm群は25℃で、それぞれ1〜4週間飼育した。アスピリンは飲料水に溶解し、400mg/kg/dayの用量で毎日経口投与した。寒冷負荷開始1、2および4週間後に、血圧と心拍数をtail-cuff法により無麻酔下で測定した後、心筋の湿重量を測定し心重量/体重を算出した。対照マウスにおいて、寒冷負荷1、2、4週間後の心重量/体重は、Warm群のそれぞれ115、120、126%に増加した。それに対し、アスピリン投与マウスでは、寒冷負荷1週間後にWarm群の126%に至る著しい増加を認めた。しかし、アスピリン投与マウスの心重量/体重は、寒冷負荷2週間後に対照マウスと同程度となり、4週間後には逆に対照マウスよりも低い値を示した。拡張期血圧は、寒冷負荷により上昇したが、その程度は対照マウスとアスピリン投与マウスとの間に差を認めなかった。また、両マウスの収縮期血圧と心拍数に、寒冷負荷による変化はみられなかった。一方、Warm群の心重量/体重、収縮期・拡張期血圧および心拍数は、両マウス間で同程度であった。以上の結果、アスピリンは寒冷ストレスによる早期の心肥大形成を促進するが、長期ではむしろ抑制することが示唆された。アスピリンのこの作用は、血行動態の変化を介するものでないと考えられる。
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