研究概要 |
1)糖尿病性合併症は主に血管内皮機能の障害に起因することが知られている。PPAR γ agonistであるpioglitazoneは、近年、インスリン抵抗性改善作用以外にも血管に対する直接的な作用が注目を浴びつつあるので、今回STZ誘発糖尿病ラット摘出胸部大動脈に対するpioglitazone慢性投与の影響について検討を行った。本研究により、STZ誘発糖尿病ラット胸部大動脈において1)acetylcholineによる弛緩反応が減弱、更に酸化ストレスを消去する作用を持つSODの発現・活性が低下し、2)酸化ストレスの一種であるsuperoxideの産生が増加し、その由来となるNAD(P)H oxidaseの活性が上昇し、3)NAD(P)H oxidaseを活性化するET-1の量が増加し、ET-1の転写調節因子であるAP-1の構成サブユニットのc-Jun発現の増加という二面性の機序により酸化ストレスが亢進し、NOのバイオアベイラビリティーが低下し、これが血管内皮機能障害発生の原因であることが示唆された。そしてpioglitazoneがAP-1 signalingを抑制しSODの発現・活性を増加させ、血管弛緩機能が改善した。この研究結果により、糖尿病病態時における血管内皮機能障害にはSODの減弱とNAD(P)H oxidase由来の酸化ストレスの上昇が深く関与していることを示唆し、糖尿病性血管障害においてpioglitazoneの慢性投与が有用な治療戦略となることが示唆された。 2)我々は糖尿病時の脳血管反応性変化を解明するため、1型糖尿病rat脳底動脈の反応性異常を検討してきた。本研究では2型糖尿病OLETF rat脳底動脈について検討した。60-63適齢OLETF ratと対照LETO ratを用い、脳底動脈の反応を常法に従い測定した。ACh誘発弛緩反応、nitric oxide synthase(NOS)阻害薬(L-NNA)誘発収縮反応と、apocynin(NAD(P)H oxidase阻害薬).tempol(SOD mimetic),SODによる影響、cGMP産生^<2)>,superoxide産生、蛋白発現を検討した。糖尿病群で(図1)、ACh弛緩反応が減弱し内皮依存性弛緩反応の障害が起こっていることが示唆された。脳底動脈はNOが主要弛緩因子であり、L-NNAで収縮反応が観察され、basal時においてもNOが緊張性に対し抑制的に働くことが明らかとなり、この収縮は糖尿病群で減弱することと、cGMP産生低下から、NO作用が低下していることが示唆された。これらはapocyninやtempol、SODで改善したので、酸化ストレスがNO作用低下を引き起こすことが考えられる。実際、糖尿病群でsuperoxide産生やNAD(P)H oxidase構成蛋白gp91^<phox>発現が増加していたので、内皮依存性弛緩反応の減弱は、NADPH oxidase由来のsuperoxide増加によるNO活性低下が一因であると考えられた。
|