本年度は、研究目的1の「血管拡張機能が正常な状態では、血管内皮細胞由来過分極因子(EDHF)の産生または作用は、一酸化窒素(NO)によってnegative regulationを受けているのではないか?このような負の調節機構が存在するのであれば、その機構はどのようなものか?」について、正常動物の腸間膜動脈を用いて検討を行った。 実験には、Wistar系雄性ラットを用い、麻酔下に腸間膜動脈第3枝を摘出し、観察用窓を開けたリング状標本を作製した。標本に膜電位感受性色素をロードした後、共焦点レーザー顕微鏡のステージに設置した。フェニレフリンを添加することにより標本を収縮させた後、引き続いてアセチルコリンを添加し、この時生じる膜電位変化を測定した。データは、アセチルコリン添加前後の膜電位の差をF/FOとして表した。また、動脈に過剰のNOを作用させる目的でニトロプルシドナトリウム(SNP)を、また、NOの産生または作用を抑制する目的で、NO合成酵素阻害薬であるL-ニトロアルギニンメチルエステル(LNAME)または可溶性グアニル酸シクラーゼ阻害薬であるODQを、それぞれ標本に前処置した後、上記と同様の方法で実験を行い、正常動脈におけるEDHFにより生じる膜電位変化に及ぼすNOの影響を検討した。その結果、アセチルコリンにより生じる過分極反応の程度は、SNPを前処置した標本においては抑制されるが、LNAMEおよびODQの前処置によっては影響をされないことをみいだした。以上のことから、過剰のNOはEDHFの産生または作用を抑制的に調節すること、その抑制機構にはcGMPは関与していないことが示唆された。一方で、NOの産生やその作用が低下した場合には、NOによるEDHFの促進的調節機構が存在する可能性は低いと考えられた。
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