本研究では、マウス下肢虚血モデルを用いてリポPGE1の血管新生促進作用の機序を調べるとともに、血管新生におけるNCX1の役割を調べるため、NCX1ヘテロノックアウトマウス(NCX1^<+/->)を用いたモデル実験を実施した。野生型マウスに下肢虚血を施すと、虚血側大腿部の血流量は健常側右大腿部の血流量の20〜30%程度まで減少した。その後、左大腿部の血流量は徐々に回復し、4週間目には約60%まで回復がみられた。リポPGE_1投与群では、虚血後1週間目より溶媒投与群に比べて、右大腿部の血流回復は有意に促進し、4週間目には約80%にまで回復した。さらに、VEGF、Aktおよびリン酸化型Aktの蛋白発現量を調べたところ、リポPGE1投与群ではVEGFおよびリン酸化型Aktの発現量が増大していた。また、NCX1^<+/->マウスに下肢虚血を施すと、虚血側大腿部の血流回復が野生型マウスに比べて有意に増強した。さらに、NCX1^<+/->マウスにリポPGE1を投与したところ、野生型マウスと同様に血流回復の促進効果が認められた。次に、eNOS阻害薬を下肢虚血マウスに4週間投与したところ、NCX^<+/->マウスならびにリポPGE1投与群双方の血流増強効果は顕著に抑制された。このように、リポPGE1はマウス下肢虚血モデルにおいて側副血行路の発達および血流の改善に対する促進作用を示すことが明らかになった。この作用にはVEGF/Akt/eNOSのシグナル経路が関与しているものと考えられた。また、NCX1^<+/->マウスの下肢虚血モデルにおいて、側副血流の増強が認められた。この機序にはeNOSの発現増加、活性化の関与が示唆された。NCX1の機能低下は細胞内Ca^<2+>濃度の増加を引き起こし、Ca^<2+>依存性にeNOSを活性化することにより、NO産生を亢進させる可能性が考えられる。
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