研究課題
本研究の目的は、動脈血管に対する甲状腺ホルモンの直接作用を同定し、その生理的意義を明らかにすることにある。十分な甲状腺ホルモン補充療法を受けていない甲状腺機能低下症患者では動脈血管石灰化が頻発することが知られている。これまでに我々は、血管における甲状腺ホルモンの生理的な標的遺伝子として血管石灰化抑制因子であるmatrix Gla protein(MGP)遺伝子を同定することに成功している。本研究では、MGP以外の血管石灰化関連遺伝子にも甲状腺ホルモンに応答するものが存在するという仮説を立て、transforming growth factor-β(TGFβ)のアイソフォームのうち、TGFβ_3遺伝子が血管平滑筋細胞において生理的濃度の甲状腺ホルモンの標的となることを示唆する結果を得た。培養ラット平滑筋細胞における甲状腺ホルモン受容体α遺伝子の発現をRNA干渉によって阻害したところ、TGFβ_3遺伝子発現の甲状腺ホルモンに対する応答性が消失したことから、甲状腺ホルモンのTGFβ_3遺伝子発現促進作用は甲状腺ホルモン核内受容体を介していることが示唆された。TGFβは骨形成に関わるだけでなく、繊維化関連遺伝子の発現調節に大きく関与している。また、異所性石灰化では繊維を構成する細胞外マトリクス分子はカルシウム沈着の足場となる。そこで、甲状腺機能低下症モデルラット(メチマゾール慢性投与)の大動脈および培養ラット平滑筋細胞における、甲状腺ホルモンに対する繊維化関連遺伝子の応答を詳細に検討したところ、デコリンをはじめとする複数の遺伝子の発現が生理的濃度の甲状腺ホルモンに有意に応答する事が明らかとなった。以上の結果より、甲状腺ホルモンは直接的に血管平滑筋細胞に作用し、遺伝子発現を調節することにより動脈血管繊維化を制御することが示唆された。
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Physiological Genomics 31
ページ: 139-157