G蛋白共役型受容体(GPCR)はあらゆる受容体のうち最大のファミリーを構成しており、現在使用されている医薬品の重要な標的分子である。我々がクローニングし、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)を生理的リガンドとすることを同定したGPCR S1P_2受容体は、G_<12/13>に共役しRho活性化の下流においてRacを抑制することにより細胞遊走を抑制するユニークな受容体であることを明らかにしている。本研究は、これら一連の我々自身の研究成果に基づいて、がん細胞・宿主細胞それぞれに発現するS1P_2受容体ががんの増殖・浸潤・転移にどのような役割をはたすのか、またその分子機構を明らかにすることを目的とする。C57BL/6マウスにLLC(ルイス肺がん)細胞を皮下接種し、腫瘍の増大と腫瘍血管新生を観察したところ、われわれの作出したS1P_2受容体ノックアウト(S1P_2KO)マウスにおいて、腫瘍増大と血管新生がともに増強されることが明らかとなった。皮下接種後10日目において腫瘍体積は約2倍、重量は1.7倍に達した。腫瘍血管を内皮細胞の表面マーカーであるCD31、血管平滑筋・周皮細胞のマーカーであるα smooth muscle actin(αSMA)の二重蛍光染色で検出した結果、S1P_2KOマウスにおいては同腹野生型マウスに比し、腫瘍血管の断面積が増加しているばかりでなく、周皮細胞をともなった成熟した血管が多数出現していた。血管新生関連シグナル分子の発現レベルを定量的RT-PCRにより解析した結果、VEGF-Aをはじめとする様々な血管新生関連分子の発現増強が認められた。以上から、宿主細胞に発現するS1P_2受容体は、腫瘍の生育を抑制性に制御すること、その分子機構の一部に腫瘍血管新生の抑制制制御を担っていることが明らかとなった。
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