Rhoファミリーシグナル伝達系分子は主に細胞骨格の調節を介して様々な生理機能や疾患の発症に重要な役割を果たしている。本研究ではヒト疾患(循環器系疾患や精神疾患等)の発症に関わるRhoファミリーシグナル伝達系分子の同定とその分子基盤を明らかにすることを目的としている。 内皮型NOS(eNOS)は循環器疾患と深い関わりがあることが知られている。eNOSは複数のキナーゼによりリン酸化を受け、1177番目のセリンのリン酸化はeNOSの活性について促進的に、495番目のトレオニンのリン酸化は抑制的に働く。しかしながら、抑制的リン酸化を担うキナーゼについては不明の部分も多い。申請者らは、Rho-kinaseがin vitroおよび、内皮細胞において495番目のトレオニンをリン酸化することを見出した。このことは、Rho-kinaseが血管攣縮や高血圧を引き起こす機序の一端を示唆するものである。 細胞極性の形成にRhoファミリー間のクロストークが重要であると考えられているが、その機序についてはほとんど明らかにされていない。申請者らはCdc42からRacへのシグナルメディエータであり細胞の極性化を担うPAR複合体の構成因子であるPAR-3をRho-kinaseがリン酸化し、その結果PAR複合体の機能を抑制することを見出した。また、Rho-kinaseがRac活性化因子であるSTEFをリン酸化すること、リン酸化を受けたSTEFはin vitroで結合蛋白質との相互作用が低下することを示し、リン酸化によりSTEFの機能が抑制されることを示唆する結果を得た。このようなRho/Rac/Cdc42の間の機能調節により、細胞の極性が正しく形成されることを示した。 さらに、Rhoファミリー分子とその活性制御因子の38遺伝子(特にアミノ酸置換を伴う57SNPs)について解析を行い、薬物誘発性冠攣縮と関連が認められる候補遺伝子(ARHGAP9A370S)を見出した(投稿準備中)。
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