破骨細胞がいかにして骨を溶かす(骨吸収)のか、その分子作用機序を明らかにする事を目的として本研究を開始した。まずインビトロでマクロファージから破骨細胞へと分化成熟させ、骨吸収を刺激依存性に定量する解析方法の確立をめざした。1、分化に関してはヒト白血L病細胞株HL60および末梢血由来CD14陽性単球を用い、M-CSF、RANKL、ビタミンD3など各種分化因子の存在下で、マクロファージ様の分化を経てTRAP(酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ)陽性かつ多核の成熟破骨細胞様に分化する系を確立した。また2、骨吸収の定量的な解析方法として、象牙質切片上で破骨細胞を分化成熟させ、Arp刺激により形成した吸収窩の数を定量する方法を確立した。さらに分化の経過およびArp刺激後の細胞骨格およびリソソームの変化を系時的に解析した。その結果、破骨細胞の成熟にともない特殊なアクチンの形態ポドゾームが形成されて吸収窩様の内腔を形成する事、その形成に微小管のアセチル化が重要な役割を果たす事、さらにATP依存性にリソソーム様の酸性顆粒が核周辺に集積する事を見いだした。 そこでこれらの変化に関わる分子の探索およびその分子機序の解明をめざした。微小管のアセチル化制御に関わる分子としてHDAC6およびチロシンキナーゼSykに着目した。Sykに関してはshRNA-Sykの永久発現型のHL60を作成した。HDAC6については脱アセチル化阻害剤を利用してその影響を解析した。Sykの下流で微小管の翻訳後修飾が影響を受ける事、微小管のアセチル化のダイナミクスが骨吸収に必須であることを確認した。今後は動画による解析を中心にさらに詳細な分子動態を追跡し、HDAC6およびSykを介した細胞骨格の変化とリソソーム様顆粒の放出過程を分子作用機序として明らかにする。
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