研究概要 |
破骨細胞がいかにして骨を溶かす(骨吸収)のか、その分子作用機序を明らかにする事を目的として本研究を開始した。まず、in vitroにヒト末梢血由来単球および白血病細胞株を破骨細胞に分化するシステムを確立した。再現性のある解析を行うため、骨溶解の開始因子を探索し、エネルギー分子であるATPが骨成分の分解を亢進することを見いだした。さらに、ATP刺激後の細胞骨格の変化とリソソーム様顆粒の動きを経時的に追跡し、以下のような骨溶解のプロセスを見いだした。(1)破骨細胞による骨溶解は,ATPと細胞表面の受容体P2×7の結合により生じるシグナルで惹起され、その際、既存のアクチン細胞骨格が崩壊して、時間経過依存性にpodosomeから成る環状の接着帯を形成する。(2)アクチンの変化に呼応するように、リソソームの移動が亢進し、半球状の破骨細胞の天頂部分に一旦集まり、その後環状の接着帯の内側領域にむけて移動して放出される。(3)上記の変化には微小管の構成成分であるαチューブリンのアセチル化の亢進とその後の脱アセチル化が必須であり、脱アセチル化阻害剤により、環状接着帯の形成とリソソームの輸送が阻止される。(4)これら微小管のαチューリンのアセチル化と脱アセチル化の上流でチロシンキナーゼSykが機能している。破骨細胞による骨溶解作用機構は、in vitro実験の難しさや開始因子が見いだされていなかったために、詳細な解析が十分おこなわれていなかった。 本研究では、ヒト末梢血由来単球からの分化モデルを確立し、かつ開始因子の候補であるATPを利用して、再現性のある骨溶解の解析実験を行うことができた。破骨細胞の過剰な活性化や機能不全によりおこる病態や疾患の分子基盤の確立および新規治療法の開発への貢献が期待される。また、これらの主な研究成果は、現在学術雑誌に投稿中である。
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