アルツハイマー病(AD)は、痴呆を特徴とする進行性の神経変性疾患であり、神経細胞の脱落、老人斑、および神経原繊維変化の蓄積を伴う。セクレターゼによるアミロイ前駆体蛋白質 (APP) の連続的な切断によって生成されるアミロイドβ蛋白(Aβ)は、凝集性および神経毒性を持つとともに老人斑の重要な成分であることから、Aβの蓄積による老人斑の形成がアルツハイマー病の主たる原因の一つであると考えられている。一方、最近になってセクレターゼによるAPPの切断によってAβとともに生成されるAPPのカルボキシル末端側断片(AICD)が、細胞核内に移行し転写複合体を形成することによって、標的遺伝子群の発現調節を介して神経細胞死を誘導する機能を持つ可能性が指摘されている。本研究で、我々はがん抑制蛋白質であるp53が特異的なDNA結合活性を持つ転写制御因子であり、さらに神経細胞死を誘導する機能を持つことから、AICDによる神経細胞死におけるp53の役割の有無に着目した研究を行った。その結果、AICDがco-factorとしてp53の活性を正に制御することによって、神経細胞死を誘導する可能性が強く示唆された。アセチルトランスフェラーゼ活性をもつTip60蛋白質はAICD複合体に含まれることが報告されている。そこで、Tip60がAICD/p53複合体に及ぼす効果をルシフェラーゼレポーター法を用いて検討したところ、Tip60はAICD/p53複合体の転写因子としての活性に影響を及ぼさなかった。従って、AICD/p53複合体の転写因子としての活性を制御する他の細胞性因子の存在が示唆され、今後の研究課題の一つとして残った。
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