研究概要 |
【目的】腫瘍内低酸素ががん細胞の分化度、がん幹細胞関連遺伝子の発現及び悪性度に与える影響について検討した。【結果】ヒト肺がん細胞株A549をく0.1%酸素濃度下で数日間培養し、生存した細胞を常酸素濃度下で再増殖させるというプロセスを複数回繰り返し、低酸素誘導アポトーシスに対して高い抵抗性を示すA549HR細胞を樹立した。A549HR細胞の他の性状を調べたところ、A549細胞と比較して、高い運動能、浸潤能、足場非依存性増殖能及びヌードマウスでの造腫瘍性を示すことが明らかになった。そこで、分化マーカーとして1型肺胞細胞マーカーAQ5遺伝子、2型肺胞細胞マーカーSP-C遺伝子、クララ細胞マーカーCCA遺伝子の発現を検討したところ、A549及びA549HR細胞は共にSP-C遺伝子を主として発現しているが、A549HR細胞ではその発現が低下していることが判った。そこで、がん幹細胞の1つの指標として考えられているHoechst33342-dim細胞の割合を調べたところ、A549HR細胞で高いことが明らかになった。次に、幹細胞関連遺伝子CD133,Notch-1,Notch-2,CD117(c-kit),CD34,Nestin,Musashi-1,0ct-4,Nanog,TAp63,ABCG2(BCRP)の発現をRT-PCRで検討したところ、A549HR細胞で顕著なCD133遺伝子の発現の亢進が認められた。【結論】A549HR細胞はA549細胞より分化度が低く、より幹細胞様の細胞に変化していること、それに伴いより悪性度の強い細胞になっていることが判った。すなわち、腫瘍内低酸素領域中ではよりがん幹細胞に類似した性質を示す低酸素耐性の細胞が選択され、このことががんの悪性度進展に関与するのではないかと推察された。
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