研究概要 |
DNA二重鎖切断等のDNA損傷応答に中心的な役割を果たしているATMの下流で,c-AblチロシンキナーゼがATM依存性に,DNA相同組み換えタンパク質RAD51をリン酸化するが,相同組み換え修復経路におけるRAD51の多岐にわたる機能のうちのどの部分に関わるかは明らかではない。我々は,c-Ablのクロマチン結合はGlivecで阻害され,Kinase-dead変異体では起こらないことを明らかにした。また最近新たに同定したRAD51-R167G変異体(R167G)は,単独発現ではクロマチンに集積しないが,c-Ablとの共発現により,RAD51野生型と同様に,クロマチン分画に集積し,抗Y-54pあるいはY-315p特異抗体を用いた解析により,c-AblによるRad51の54番,315番のチロシンのリン酸化がクロマチン分画でのみ起こることを認めた。R167Gは,RAD51がフィラメントを形成した時に,隣接するRAD51分子との境界領域に存在すると考えられている。やはり,この領域に存在すると予想されるRAD51-F86E変異体(ケンブリッジ大,Venkitaraman博士から供与された。)についても,c-Ablとの共発現でクロマチン集積が回復し,54番,315番のチロシンリン酸化を確認した。さらにR167Gの54番と315番のどちらのチロシンがリン酸化によるクロマチン集積に必要かを調べるために,二重の変異体(RAD51Y54F/R167GとRAD51R167G/Y315F)を作製して,蛍光抗体法でc-Abl共発現の場合のRAD51の局在を検討した。その結果,R167Gのc-Abl共発現によるクロマチン集積には,RAD51の315番のチロシンのリン酸化が重要であることが判明した。以上の結果から,c-Ablが自身のキナーゼ活性依存性にDNA損傷部位に移行し,BRCA2依存性にDNA損傷部位に移行したRad51のチロシン隣酸化を行い,おそらくはRad51の自己集合あるいはDNA結合を制御することにより,最終的にRad51のDNA損傷部位でのフィラメント形成を促進すると考えられる。今後,DNA損傷によるc-Ablファミリーの活性化と,チロシンキナーゼ活性依存性に起こるDNA損傷部位への集積の機序について,BRCA1とTopBP1の役割に重点をおいて検討すると共に,Rad51の相同組み換えDNA修復能への,分子標的薬剤Glivecの影響について検討する。
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