PKN3のmRNAは、正常成熟組織においてはほとんど認められず、癌細胞において発現が高いことが知られていた。そこで、本研究においてはまずPKN3に対する特異抗体を作成して、マウス成体の正常各組織のウェスタンブロッティングを行ったが、やはり発現量はPKNの他のアイソフォームに比べて顕著に少ないことがわかった。次にPKN3のノックアウトマウス作成を開始した。PKN3ノックアウトベクターを構築し、ES細胞に導入したのち、相同組換え体をPCRおよびサザンプロッティングによって選択した。ターゲッティングを確認できたES細胞を、マウス杯盤胞内にもどしてキメラマウスを作成し、野生型C57BL/6と交配してF1世代のヘテロマウスを作製した。EIIalpha-Creリコンビネーストランスジェニックマウスとの交配を行って、Neo耐性遺伝子を除いたのち、戻し交配を1度行った段階で、PKN3ホモノックアウトマウスを作成した。PKN3ノックアウトマウスは、マクロ解剖上および、生殖・摂食行動などにおいて明らかな異常を認めなかった。そこでこのマウスから、マウス胎児線維芽細胞を採取し、創傷治癒モデル系での細胞運動能について、野生型マウスのそれと比較した。また、マウス胎児線維芽細胞に、レトロウイルスを用いてSV40 1argeTを導入して不死化したのち、活性化型RasV12を導入して、フォーカス形成能におよぼすPKN3ノックアウトの影響を検討した。現在、統計学的に明瞭なデータを得るため、細胞系列および試行回数を増やし検討しているところである。今後C57BL/6への戻し交配を進めるとともに、マウス個体をもちいた発癌・転移の実験を加えていく予定である。またPKN3の創薬ターゲットとしての可能性を踏まえて、PKN3の活性化メカニズムを解明するために、種々の欠失変異体をバキュロウイルス発現系を用いて作成、酵素活性を調べ、PKN3の自己抑制領域を明らかにすることができた。
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