研究概要 |
内因性マリファナ様物質であるアナンダミドを含むN-アシルエタノールアミン(NAE)がホスファチジルエタノールアミン(PE)からN-アシルPE(NAPE)を経て作られることは知られていたが,反応に関与する酵素や遺伝子の実体はこれまで不明であった。最近,我々は二番目の反応であるNAPEからアナンダミドを含むNAEの生成を触媒するホスホリパーゼD型酵素(NAPE-PLD)のcDNAクローニングに成功した。本研究の目的は,NAPE-PLDの遺伝子欠損(KO)マウスの作製・解析を行い,本酵素により生成されるアナンダミドを含むNAEの生理機能を明らかにすることである。 本年度は以下の研究を実施した。 1.KOマウスの作製 NAPE-PLDの触媒活性中心が局在する第3エクソンを標的部位として,Cre/loxPシステムを用いてKOマウスを作製した。KOマウスの各臓器におけるNAPE-PLDのmRNAおよびタンパク質レベルの欠如はRT-PCR法およびウエスタンブロット法により確認した。一方,NAPE-PLD活性は野生型(WT)マウスに比べて、KOマウスの各臓器で様々な程度で減少したが,完全に消失しなかったことから,NAPE-PLD以外の経路を介するNAEの産生経路の存在が示唆された。 2.KOマウスの生化学的解析 正常時における脳内のNAEおよびそれらの前駆物質であるNAPEの含量を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定したところ、KOマウスの脳内のNAPE量がWTマウスより15-20倍も増加した。これらの結果から,NAPE-PLDが生体内でNAPEからNAEの生成に中心的に働いていることが示された。
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