研究概要 |
内因性マリファナ様物質であるアナンダミドを含むN-アシルエタノールアミン(NAE)がホスファチジルエタノールアミン(PE)からN-アシルPE(NAPE)を経て作られる。我々は2004年にNAPEからアナンダミドを含むNAEの生成を触媒するホスホリパーゼD型酵素(NAPE-PLD)のcDNAクローニングに成功した。本研究では,本酵素により生成されるアナンダミドを含むNAEの生理機能を明らかにするために、NAPE-PLD遺伝子欠損マウス(NAPE-PLD^<-/->)の作製・解析を行った。1)NAPE-PLDの触媒活性中心が局在する第3エクソンを標的部位として,Cre/loxPシステムを用いてNAPE-PLD^<-/->を作製した。2)NAPE-PLD^<-/->はメンデルの法則に従って生まれた。3)各臓器におけるNAPE-PLDの発現の欠如にかかわらず、NAPE-PLD^<-/->のNAPE-PLD活性は各臓器で様々な程度で減少したが、完全に消失しなかった。4)NAPE-PLD^<-/->の成長・体重の変化・外見(形態的・行動的特徴)に現れる表現型および脳を含む主要な臓器における組織学的異常は認められなかった。5)正常時のNAPE-PLD^<-/->の脳内のNAPE量がNAPE-PLD^<+/+>と比べ、15-20倍増加した。一方、NAPE-PLD^<-/->の脳内のNAE量はNAPE-PLD^<+/+>と比べ、わずかに減少した。6)NAPE-PLD^<+/+>とNAPE-PLD^<-/->の学習・記憶能力に有意な差は認められなかった。以上の結果から、NAPE-PLDが生体内でNAPEからNAEの生成に中心的に働いていることが示された。また、NAPE-PLDを介さないNAEの生合成経路が存在する可能性が示唆された。これまでの予備的検討により上記の結果が得られているが、今後、さらに厳密な検討が必要である。
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