膜型増殖因子であるHeparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)はメタロプロテアーゼによって細胞膜直上にて切断され遊離型となり、自らもしくは周囲細胞のEGF受容体を活性化させる。切断不全変異体を導入したマウスでは胎児期に心臓の拡張を生じ、生後まもなく死亡することが報告されている。しかしながら、成体での影響については不明であった。この度我々は、ラット心筋細胞H9c2株に切断不全HB-EGF変異前駆体(uc proHB-EGF)を組み込んだアデノウイルスベクターを導入し、心筋細胞における影響について調べた。野生型proHB-EGF導入細胞に比してuc proHB-EGF導入細胞群では有意に細胞死の誘導がみられ、かつTUNEL陽性細胞の数が上昇していた。さらに低酸素条件にて同様の検討を行うと、uc proHB-EGF細胞での細胞死誘導が増強された。我々はHB-EGFのC末端ペプチド(CTF)は切断後に細胞核膜へと移動し、Znフィンガー型転写抑制因子PLZFやBcl6と結合することによって転写抑制を解除することを報告している。このことから細胞死誘導にもHB-EGF CTFが産生されないために、ある遺伝子の転写抑制が解除できない結果抗細胞死因子の発現が認められずに細胞死へと進むのではないかと考えた。現在DNAマイクロアレイにて変化する遺伝子を数種同定した。一方、発達する心筋細胞に関与するZnフィンガー型転写抑制因子を探索するため、その前駆細胞である中胚葉系前駆細胞をマウスES細胞より作出し、DNAマイクロアレイ解析を行った。その結果いくつかの転写抑制因子を同定し、遺伝子の抽出および精製を行った。これらの結果から低酸素ストレスにはHB-EGF前駆体の切断が重要な働きをしていることが明らかとなり、心筋症の発症メカニズムの解明の一端をつかんだと思われる。
|