私共はRasファミリー低分子量GTP結合蛋白質Rap2がMAPKKKキナーゼ(MAP4K)としてJNKを活性化する3つのキナーゼ(NIK/HGK、TNIK、MINK)と特異的に結合することを明らかにした。Rap2に加え、上流シグナルの受容や下流シグナルの伝達に関わる多彩な分子と共にこれらMAP4Kが相互に結合して複合体を形成すると考えており、これを「Rap2-MAP4Kシグナル複合体」と呼ぶ。 本研究では、表皮角化細胞をモデルに、この複合体の制御機構と細胞機能を解析した。 1.シグナル複合体の構成と活性制御機構 MAP4K結合分子を検索し、シグナル複合体の主要構成分子を解析した。すでにTNIK同士の結合を見出しており、複合体にMAP4Kのダイマーあるいはオリゴマーが含まれると考えているが、自作の精製特異抗体による解析で表皮角化細胞にMINKが豊富であることから、MINKを含むオリゴマーが考えられる。一方、TNIK結合分子として同定した200kDa分子は、ショウジョウバエrolling pebblesのヒトホモログと考えられた。 2.Rap2-MAP4Kシグナル複合体の機能解析 間葉系細胞ではRap2-MAP4Kシグナル複合体は細胞基質接着を制御する。一方、上皮系の表皮角化細胞では、複合体は細胞間接着部位に局在する。表皮角化細胞にレトロウイルスを用いてHAタグ付きTNIKの過剰発現を誘導すると(Tet-Offシステム)細胞間接着が障害されることから、複合体は細胞間接着を制御すると考えられる。また、このとき上記TNIK結合分子がリン酸化によると考えられられる移動度シフトを示す。細胞接着制御はTNIKのキナーゼ活性に依存していることから、この分子のリン酸化が表皮角化細胞の細胞間接着に関与する可能性がある。
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