これまでに我々は、独自に樹立したポドサイト特異的aPKCλ欠損マウスが、腎糸球体濾過装置の主役であるスリット膜の機能不全に起因する蛋白尿・糸球体変性を呈して腎不全に陥ることを明らかにした。平成18年度までに進めた血液生化学的解析・尿検査・病理学的解析の結果、このマウスがヒトの糸球体疾患モデルマウスとして極めて有用であることを確認した。これらの結果を発展させ、糸球体疾患の分子病態生理に迫るべく、平成19年度は形態学的解析に加えて分子生物学的解析も進め、以下の成果を得た。 1.ポドサイト特異的aPKCλ欠損マウスにおいて、発達ステージごとの電子顕微鏡的解析を行った。その結果、糸球体基底膜の傷害は殆ど観察されないが、スリット膜は一旦形成されるものの、ステージが進むにつれて局在異常、崩壊、喪失へと病態が進行することを明らかにした。 2.腎糸球体の機能制御に対するaPKCの作用点を調べる為、スリット膜構成分子複合体とaPKCの関係を解析した。単離したラット糸球体をaPKC阻害剤で短時間処理し、スリット膜構成分子であるポドシン、ネフリンの生化学的分画動態をコントロールと比較した。その結果、正常なポドシン、ネフリンの分布にはaPKC活性が必要であることを明らかにした。一方、ポドシン-ネフリン複合体の絶対量は、aPKC阻害剤の短時間処理によって大きな影響を受けなかった。 以上から、aPKCが正常なスリット膜構成成分の正常な分布に必要であり、糸球体疾患ではaPKCの機能異常が関与する可能性が示唆された。また、平行して進めた実験から、aPKCが脂質膜ドメインの制御に関与することやPAR3がアピカル膜ドメイン形成に必要であることなども明らかにした。 これらの結果をまとめ、発表・報告した(雑誌論文4件、国際学会1件、国内学会1件)。
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