研究概要 |
本研究課題では,膵管癌の分子診断法の確立を目指して,膵管癌の前駆病変として有力視されるようになってきた膵上皮内腫瘍性病変(pancreatic intraepithelial neoplasia,PanINs)、腺房細胞の膵管上皮化生(acinarto-ductal metaplasia),膵管内乳頭粘液性腫瘍(lntraductal papillary mucinous neoplasm,IPMN)について,膵管癌との関連を明らかにすることを目的として解析を行っている。 昨年度は,上記,PanINs,IPMNsとの関連が示唆されている胆管病変について主に検討した。肝外胆管は膵管と発生上近似性が高く,PanINsやIPMNsとの比較検討が膵癌早期病変の解明に繋がる可能性があると考えられるからである。胆管内に乳頭状病変を確認し得た34例について解析したところ,組織異型度は,一部良性病変の混在を見る症例はあるもの,全例悪性症例であった。その他の特徴は既報告例に類似していたが,肝内胆管に主座をおく症例は,粘液産生を示すものが多く,浸潤性性格は弱く,また腸型形質を示すものが少ない傾向にあるなど,腫瘍の特徴と組織発生との関連が窺われた。一方,通常の胆管癌も含め,肝門または肝外胆管腫瘍の診断で手術切除された105例について行った検討では,「乳頭型」(n=20)の肉眼型を示すものは非乳頭型に比べて,高分化型腺癌(82.4%),早期癌(35.3%),n(一)(88.2%)の頻度が有意に高く,リンパ管侵襲,静脈侵襲,傍神経浸潤などの陽性率も低い傾向にあった。また免疫組織化学ではMUC2陽性率(35.3%)が有意に高かった。しかし一方で,腺腫例はなく,MUCI(+)症例も多く,pancreatobiliary typeが多いなど,類縁と考えられている膵管内腫瘍の特徴とは異なる点も明らかにした。一昨年から進めているIPMNと膵管癌の問質線維芽細胞におけるペリオスチン発現(膵星細胞での高発現が確認された分泌タンパクで,膵の線維化および腫瘍の発育進展に関与していると考えられている)についても,早期膵癌病変の段階でも腫瘍周囲の環境変化が始まっている可能性を示唆してきたが,膵癌の前駆病変およびその周囲環境の変化に関わるその他の因子についてさらに解析を進めている。
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