研究概要 |
前立腺癌の臨床において最も問題となるのは、ホルモン不応性前立腺癌の出現である。内科的去勢といったホルモン療法は、通常の前立腺癌には非常に効果的であるが、前立腺癌はある段階でホルモン療法に対して耐性となり、悪性度が増して、既存の抗癌剤への反応は乏しく、最終的に患者を死に至らしめる。このホルモン不応性前立腺癌の分子的特徴を解明するため、18症例より25サンプルのホルモン不応性前立腺癌と10サンプルの通常の前立腺癌を収集し、これら凍結切片より癌細胞のみを抽出し、ゲノムワイド(3万スポット以上)でのcDNAマイクロアレルにより、遺伝子発現解析をおこなった。その結果、遺伝子発現パターンのみでのこれら36個の前立腺癌の分類では、ホルモン不応性前立腺癌と通常の前立腺癌と明瞭に区別された。また、ホルモン不応性前立腺癌と通常の前立腺癌を区別することのできる遺伝子として、AR,ANLN,NR4A1,CYP27A1,HLA-Aなどを同定した。これら遺伝子の発現異常は、ホルモン不応性前立腺癌の表現系に寄与するものと考えられ、特にAR(androgen receptor)の高い発現は、全てのホルモン不応性前立腺癌で観察され、ホルモン不応性前立腺癌であっても、依然AR pathwayは中心的な役割を果たしていると考えられた。このゲノムワイドの遺伝子発現プロファイルによって、ホルモン不応性前立腺発生の理解が深まり、さらにはホルモン不応性前立腺癌で発現異常をきたす遺伝子を標的とした分子標的の可能性が考えられる。
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