研究概要 |
原発性胆汁性肝硬変(PBC)や胆道閉鎖症は,胆管細胞アポトーシスによる胆管消失を特徴とする疾患で,両疾患とも病因として微生物の関与が想定されている。昨年度,我々はヒト培養胆管細胞を用いた検討にて,胆管細胞アポトーシスの分子基盤および細菌由来のpathogen-associated molecular patterns(PAMPs)に対する自然免疫の関与について解析した。本年度は,ウイルス関連のPAMPsに対する自然免疫とアポトーシスとの関連性について検討した。その結果,胆管細胞は2本鎖RNAの受容体であるToll様受容体3(TLR3),retinoic acid inducible gene I(RIG-I),melanoma differentiation-associated gene-5(MDA-5)を恒常的に発現しており,合成2本鎖RNA(Poly I:C)刺激にて,転写因子であるNF-κBやinterferon regulatory factor-3(IRF-3)の活性化,プロテインキナーゼR(PKR)の活性化および抗ウイルス因子であるIFN-β1やMxAの産生が見られ,2本鎖RNAに対するヒト胆管系自然免疫機構の存在が確認できた。また,Poly I:C刺激にてアポトーシス誘導分子であるTRAILの発現亢進と胆管細胞アポトーシス誘導が見られた。さらに,TLR4などを介した細菌成分に対する自然免疫応答は,持続的な刺激にてトレランスが誘導されたが,TLR3などを介した2本鎖RNAに対してトレランスは誘導されず,2本鎖RNAが存在する限り自然免疫応答が持続した。以上の結果より,胆管細胞は2本鎖RNAに対する自然免疫応答にてアポトーシスによる自らの細胞死を誘導し,微生物(特に2本鎖RNAウィルス)の関与が想定されている胆管消失疾患の病態形成に直接関与していることが示唆された。
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