エピジェネティクな遺伝子発現調節機構のひとつである遺伝子プロモーターCpG領域シトシンメチル化は、個体発生、発癌や疾患罹患に関する個体差等の、医学上の多岐にわたる問題と密接に関連している。今回、われわれが科学研究費助成金の交付を受けた研究テーマは、「特定の遺伝子プロモーター領域にCpGメチル化を持つ個々の細胞を、組織切片上で標識可視化する技術(in situ MSP法)の開発」であった。当初、われわれの想定したin situ MSP法は、以下の行程で構成されるものであった。(1)固定薄切された組織切片あるいは塗抹細胞をスライドガラス上に貼付し、タンパク分解酵素による細胞核DNAの形骸化処理。(2)亜硫酸ナトリウムによるシトシン⇒ウラシル置換反応。(メチル化シトシンの場合は亜硫酸ナトリウムによる変化を受けない。)(3)亜硫酸ナトリウム処理済みの組織切片上で、通常の液相MSP法で使用するメチル化特異的および非メチル化特異的プライマーを用いて、標準的なin situ PCR間接法の手法に順じたDNAフラグメントの増幅、標識反応、CpGメチル化細胞同定の施行。平成18年度の助成期間中にin situ MSP法の開発を完了する予定であったが、初期の予想以上に非特異的標識がみられ改善の必要性が考えられた。解決策として固定操作、蛋白分解酵素処理の改変、PCRプライマー設計見直し、in situ PCR法の改良等を行った。以上の再検討の結果から非特異的標識の原因としては、(3)のin situ PCR法によるものが最も重要と考えられた。今後はこの問題点の改善に重点を置き、平成19年の半ばまでに基本的手技を確立する予定である。また、確立したin situ MSP法の有用性を実際の研究への利用により実証する。
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