研究概要 |
われわれは胃癌の新規メチレーション遺伝子を同定するために、胃癌細胞株に対し、脱メチル化剤とヒストン脱アセチル化抑制剤を用いたphamacological unmasking microarray法を行い、脱メチル化前後で発現増加を認めた遺伝子のリストを作成した。さらにLaser Microdissection法を用いて、臨床検体胃癌細胞から得たRNAに対しcDNA-microarray(Agilent社製:12,814gene搭載を使用)を行うことで発現抑制を認める遺伝子のリストを作成し、胃癌細胞株データと併せて検討。胃癌においてメチル化により転写抑制されている潜在的癌抑制遺伝子(34遺伝子)群」のリストを得た。このリストの中で、特にFhl1遺伝子に注目し以下の解析結果を得た。 胃癌臨床症例におけるFhl1の発現を定量的RT-PCR法と免疫組織染色を用いて調べた結果、Fhl1発現は胃癌細胞で、有意に抑制制御されていることを明らかにした。さらに、Fhl1発現と胃癌臨床病理学的因子との関連の解析およびKaplan-Meyer法による生存解析では、Fhl1発現減弱症例はより深い腫瘍浸潤を呈し、高頻度の遠隔転移陽性率を示し、統計学的有意差をもって予後不良であることが明らかになった。 今回の解析結果はFhl1の発現消失または減弱がさまざまな癌種で確認されるというこれまでの報告に一致している。一方、Shen YらはCrk-associated substrate(Cas)がFhl1を抑制して癌細胞のmigrationとgrowthを制御することをin vitroで報告している。また、Brabek J。らはCas経路の活性化が癌細胞の浸潤能を高めることをin vivoで証明するなど、多くの研究によりCas・Fhl1シグナル経路が癌進展において重要であることが示されている。以上の結果から、Fhl1の発現減弱・喪失は、Cas経路と共に主要の浸潤・転移を促進し予後を規定しうるほど重要な機構であることが明らかになった。
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