1.ゲノム修復関連蛋白の免疫組織化学:被爆者甲状腺組織においてゲノム不安定性の程度の指標としての53BP1発現を免疫組織化学的に検索した。非腫瘍性濾胞上皮では、遠距離被爆群に比し近距離被爆群で53BP1フォーカス形成の程度の充進は観察できずむしろ抑制傾向にあった。 2.被爆者濾胞上皮のゲノム不安定性:53BP1フォーカス形成の程度は癌細胞で有意に高度であり、上流分子のpATM発規と共局在し、野生型p53共局在する。癌周囲の濾胞上皮の一部でも53BP1フォーカス形成がみられ、pATMやp53発現と共局在していた。今回、53BP1発現を指標として、近距離被爆者にゲノム不安定性の亢進を明らかにできなかったが、癌周囲の濾胞上皮の53BP1フォーカス形成は癌化過程の初期のイベントである可能性を示唆する。 3.BRAF遺伝子異常解析:被爆者乳頭癌47例中7例(14.9%)にT1799A点突然変異を認め、40例(85.1%)は野生型であった。変異群と野生群との間に被爆距離(平均4.5vs.3.2km)、被爆時年齢(平均15.7vs.16.8才)、潜伏期(平均43.9vs.43.5年)の有意差は認めなかった。 4.甲状腺癌のRET遺伝子増幅とゲノム不安定性:乳頭癌のRET遺伝子増幅は放射線誘発と高悪性度群に限られる。甲状腺腫瘍の53BP1発現様式は、腺腫ではDNA損傷応答型、未分化癌では損傷修復異常型へと変化した。ゲノム不安定性は良性腫瘍の時期より誘導され、癌化進展とともに亢進することが示唆される。放射線誘発乳頭癌の53BP1発現型は、未分化癌と同様全例損傷修復異常型であった。放射線誘発甲状腺癌のRET遺伝子増幅への損傷修復異常に基づくゲノム不安定性の亢進の関与が示唆される。
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