急性冠症候群の発症には、冠動脈内の血栓形成とそれによる内腔閉塞が直接的な引のとなる。我々の研究成果を含めた知見の蓄積により、ヒト冠動脈プラークにおける血栓の形成・進展には、酸化ストレスが密接に関連することが明らかとなってきている。酸化ストレスの亢進は内皮細胞の傷害や細胞老化による機能障害、および酸化LDL生成の増大をもたらし、結果として内皮細胞の抗血栓能低下、血小板粘着亢進などにより血栓形成が促進されると考えられる。近年、ヒトでの酸化ストレス亢進や酸化LDL生成増大に寄与する候補物質として、好中球のミエロペルオキシダーゼが注目されている。平成19年度の本研究では、急性冠症候群の発症予知および抑制をめざして、急性冠症候群の発症に直結するヒト冠動脈血栓形成・進展メカニズムについて、特に酸化ストレスの観点から、好中球ミエロペルオキシダーゼをはじめとする酸化ストレス関連物質の動態解明を目標に取り組んだ。 昨年度に引き続き、ヒトの冠動脈や頸動脈から不安定プラーク標本を収集、免疫組織化学的検索を施行し、プラークにおけるミエロペルオキシダーゼ陽性好中球の浸潤に関連してS100A8/A9complexがヒト冠動脈のプラーク不安定化に重要であることをはじめて報告した(MiyamotoS、Heart2008、in press)。頸動脈のプラーク不安定性に、好中球・血小板連関とともに新生内膜増殖が重要な役割を担っていることをはじめて明らかにした(KitabayashiC、Circ J2008)。さらに不安定プラークにおける好中球活性化やミエロペルオキシダーゼの発現に伴う酸化ストレス増強の指標として、ネオプテリンが診断や発症予知にたいへん有用な新規物質として期待されることを明らかにした(Adachi T、Heart2007)。
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