胃癌及び非癌部粘膜におけるテロメア量の変化を検討するため、早期胃癌症例6例(うち多発癌症例2例)を用い、がん病変を含む広い領域を全割し、(TTAGGG)4をFITCでラベルしたプローブを用いてfluorescent in situ hybridization(FISH)を行った。コントロールは、粘膜内に浸潤しているリンパ球におけるテロメア量を100%ととして表示した。その結果、 (1)胃癌部では10-40%にテロメア量は減少していた。特に、進行癌ではテロメア量は早期癌よりも低かった。 (2)胃癌周囲粘膜では、癌に近い部分ほどテロメア量は低下しており、癌から1cm以上遠ざかるとほぼ平均的な値を示した。 (3)非癌部粘膜では、腸上皮化生粘膜では非腸上皮化生粘膜に比較しテロメア量は平均して低く、腸上皮化生では70-90%、非腸上皮化生では80-95%程度であった。 (4)ヘリコバクター・ピロリ菌陽性で活動性胃炎が強い粘膜では、活動性胃炎を示さないあるいは活動性の低い粘膜に比較し、テロメア量がより減少していた。 (5)今回の検討では胃癌がすべてhTERTタンパク陽性であったが非癌部粘膜ではhTERTは陰性であった。 (6)全割された粘膜の中でも癌から1cm以上はなれた非癌部に径1cm程度の範囲で周囲よりもテロメア量が15-25%低下している領域が認められた。同部は内視鏡的には軽度の炎症所見は認められるものの明らかな特徴が見られず、組織学的には中等度の活動性をしめす腸上皮化生粘膜あるいはヘリコバクター・ピロリ菌の消失した腸上皮化生粘膜で、1例では再生異型と診断される核の軽度腫大が認められた。同領域ではp53の異常蓄積は認められなかった。また、hTERT発現も見られなかった。 以前の検討からテロメア量の高度の低下がhTERT発現の引き金となることが示唆されており、このようなテロメア短縮が限局した分布を持って認められることは、このような変化が前がん病変へと進展する可能性が考えられた。
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