潰瘍性大腸炎(UC)関連発癌は、UC長期罹患に伴って高頻度にみられ、その経路には我々を含めた過去の報告により、p53の早期変異を伴う「p53依存性発癌経路」が主であると考えられてきた。しかしながら、我々が潰瘍性大腸炎関連癌におけるp53変異を検討したところ、その頻度は50%程度であり、「p53非依存性発癌経路」の存在も有意に考える必要があった。我々はこの「p53非依存性発癌経路」に関連して間質微細環境の変化が上皮に与える影響について解析を続けており、間質組織のゲノム不安定性がUC関連癌では有意に高いことを報告した。本研究は腫瘍組織を特異的に採取するlaser capture microdissection(LCM)とDNA microarrayを組み合わせて、UC関連癌と通常の孤発性大腸癌におけるmRNA発現プロファイルを比較し、p53非依存性発癌経路における特徴的・特異的な遺伝子の同定・解析を行い、UC関連癌からの発癌リスクを間質微細環境の変化に着目して同定し、発癌リスクの予測システムの構築を目的としている。 平成18年度においてはその前段階としてOCTコンパウンド包埋凍結腫瘍組織から腫瘍細胞のみをLCMで採取し、RNAの抽出-増幅-gene chip hybridizationを行い、実験系の検討を行った。その結果、当初の想定よりも組織量が必要であり、現時点では腫瘍組織の場合、LCM cap(Arcturus)20個程度の組織量が必要と考えられる。また、得られたRNAのクォリティーについてBioanalyzer(Agilent)で検討したところ、LCM後の組織染色法によってはRNAの分解が著しい場合が明らかとなった。マウス新鮮臓器組織を用いた検討によって、極力水系を避けることでRNA分解を回避できることから、組織の核染色にはLCM staining kit(Ambion)を用いることとした。これらの条件検討を経てLCM-RNA増幅(2回)-Human array U133 plus 2.0(Affymetrix)を用いてPercellome法(国立医薬品食品衛生研究所毒性部が開発した、細胞当たりの絶対的mRNA発現量測定を基盤としたcDNA microarray解析方法)にてmRNA発現プロファイルを解析する系を確立できた。現在はこの系を用いて、人材料(孤発性大腸癌、潰瘍性大腸炎関連癌及びそれぞれの非腫瘍組織)におけるmicroarrayの解析を行っている。
|