研究概要 |
従来より前立腺癌の発生,進展に関与する染色体変化を理解するため癌組織におけるloss of heterozygosity(LOH)を検索してきた.これまでに8p22-23,13q14,21,33におけるLOH頻度は,転移癌を含む臨床癌において前臨床ステージの癌よりも高いことを示してきた.一方で前立腺全摘症例を観察すると,ラテント癌レベルの顕微鏡的微小癌が多数例にて存在する.現在の多数針生検およびPSAスクリーニングが普及してきた状況下では,この微小癌を針生検で拾い上げてしまう可能性があり組織学的に大きな癌の一部であるのか,治療の必要のない微小癌かは判断不可能である.過去の臨床病理学的な解析から,癌体積が200mm^3以下は臨床的に重要でない癌とされているがその根拠は希薄である.そこで微小癌と臨床癌の体積を算出しそれぞれのLOH頻度を調べることにより,どの程度の大きさの癌が臨床癌と同等の染色体変異を有するのか,従来の体積基準は妥当であるのかどうかを検討した.その結果,6q16-21,6q22,8p23.1,8p23.2,13q14のLOH頻度は微小癌で1.0%,2.7%,1.9%,1.1%および5.4%であった.一方,同一症例の主腫瘍(臨床癌)では,30.9%,40.4%,12%,8.7%および20.6%であり,各locusにおいて統計学的な有意差を認めた.つまり微小癌では6q22,8p23.2-23,13q14および13q33において有意に臨床癌よりもLOH頻度が低く,これらをマーカーにすることにより微小癌と臨床癌を区別できる可能性が示唆された.また200mm^3以下の腫瘍とそれ以上の腫瘍ではLOH頻度には差はなく,臨床的非重要癌の境界は200mm^3よりも小さい値に設定すべきと考えられた.
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