研究概要 |
本年度は以下の実績を得た. 1.外科的に切除された20例(小腸15例,大腸5例)のクローン病症例を対象に,ホルマリン固定パラフィン包埋された各症例の代表的な病理組織切片を用いて,胃型(MUC5AC, MUC6,HGM, HIK1083抗体)ならびに腸型(MUC2,villin抗体)の細胞分化マーカー,腸への分化誘導に関わる転写因子Cdx-2に対する抗体を用いた免疫組織化学的染色を施行し,粘膜における形質発現を検討した. 2.胃型形質発現は,小腸では14/15例(93%)に,大腸では5/5例(100%)に認めた.胃型のうち,腺窩上皮への分化を示したものは小腸11/15例(73%)[HGM陽性12例,MUC5AC陽性11例],大腸5/5例(100%)[HGM陽性5例,MUC5AC陽性4例],幽門腺への分化を示したものは小腸14/15例(93%)[MUC6陽性14例,HIK1083陽性12例],大腸2/4例(40%)[MUC6陽性2例,HIKIO83陽性0例]であった.HGMとMUC5AC, MUC6とHIK1083の染色性は各々よく相関していたが,HGM, MUC6がより強い染色性を示した. 3.腸型形質発現ならびにCdx-2発現は,小腸,大腸ともすべての症例で保たれていた. 4.胃型,腸型形質発現と炎症の程度,肉芽腫形成とは相関を認めなかった. 5.消化管粘膜再生過程において,小腸,大腸のいずれにおいても胃型形質発現が確認された.小腸は幽門腺への分化を,大腸は腺窩上皮への分化を示しやすい傾向がみられた.これは,正常粘膜における腺管形態の差に起因する可能性が示唆された.
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