研究概要 |
本年度は以下の実績を得た. 1.外科的に切除された12例の潰瘍性大腸炎(UC)症例について,ホルマリン固定パラフィン組織切片を用いてHE染色により病理組織像を確認し,胃型上皮(腺窩上皮,幽門腺細胞)への分化を検討した.さらに,腸への分化誘導に関わる転写因子Cdx-2の発現を免疫組織化学的に検索し,形質発現との関係を調べた. 2.12例中8例(75%)で明らかな腺窩上皮への分化を認めた.幽門腺細胞への分化(偽幽門腺化生)は1例(8.3%)のみであった.現在,胃型(MUC5AC, MUC6, HGM, HIK1083抗体)ならびに腸型(MUC2, villin抗体)の細胞分化マーカーを用いて確認中である.パネート細胞への分化は8例(75%)で認めた. 3.腸型形質発現ならびにCdx-2発現は,すべての症例で保たれていた.消化管の細胞分化に関わる他の転写因子[Sox2, Sonic hedgehog(SHH), Musashi-1]に関しても免疫組織化学的検索を試みたが,有意な結果が得られなかった. 4.潰瘍性大腸炎実験モデルマウス(2%デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)投与マウス,10匹)を用いた検索では,DSS投与中止後20日目の粘膜には高度の慢性炎症と再生性変化を認めたが,明らかな胃型上皮の出現はみられなかった(HE染色のみでの検索). 5.ヒトUC症例では,上皮の再生過程に加えて過形成性変化を伴う症例で,より強い胃型形質の発現が観察された. 6.以上の結果より,大腸粘膜における胃型形質発現のような異分化(化生性変化)は,炎症の程度と逆相関があると思われた.このことから,粘膜の炎症が消腿して再生上皮の出現をみた後に,ある程度の時間的経過を経てから分化の方向が定まってくると考えられた. 7.幽門腺への分化をほとんど認めなかった理由として,正常粘膜における腺管形態に起因する可能性が示唆された.
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