研究概要 |
【目的ならびに方法】 外科的に切除された炎症性腸疾患(IBD)症例の消化管粘膜再生過程について,再生医療への応用をも見据えた有用な基礎的情報を得る目的で病理組織学的に細胞増殖・分化の面から解析した.18年度はクローン病(CD)20例(小腸15例,大腸5例),19年度は潰瘍性大腸炎(UC)12例を対象に,ホルマリン固定パラフィン包埋された各症例の代表的な病理組織切片を用い,胃型(MUC5AC,MUC6,HGM,HIK1083抗体)ならびに腸型(MUC2,villin抗体)の細胞分化マーカー,腸への分化誘導に関わる転写因子Cdx-2に対する抗体を用いた免疫組織化学的染色を施行し粘膜における形質発現を検討した. 【結果ならびに考察】 1.CDでは胃型形質発現は小腸14/15例(93%),大腸5/5例(100%)に認めた.腺窩上皮への分化は小腸11/15例(73%),大腸5/5例(100%),幽門腺への分化は小腸14/15例(93%),大腸2/5例(40%)であった. 2.UCでは8/12例(75%)で明らかな腺窩上皮への分化を認めた。幽門腺細胞への分化(偽幽門腺化生)は1例(8.3%)のみであった. 3.CD,UCともに腸型形質発現ならびにCdx-2発現はすべての症例で保たれていた. 4.消化管の細胞分化に関わる他の転写因子[Sox2,Sonic hedgehog(SHH),Musashi-1]に関しても免疫組織化学的検索を試みたが,染色至適条件が見つからず現在までのところ有意な結果が得られていない. 5.IBDの種類を問わず小腸は幽門腺分化を,大腸は腺窩上皮分化を示す傾向がみられた.この差は正常粘膜での腺管形態の差に起因すると思われる.また粘膜破壊に伴う細胞分化異常が生じても形態に関する情報は保持されていることを示しており,器官の基本的形態はより上位の遺伝子支配を受けている可能性が示唆された。
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