研究概要 |
食道原発の扁平上皮癌は日本、中国など東アジアに多く発生し、予後の悪く、頭頸部の臓器に同時性、異時性に多発することが知られている。食道癌の病因としては、ウイルス感染症、アルコール多飲、喫煙などの生活習慣との関連が指摘されているが、いまだ多発発生の詳しいメカニズムは明らかではない。平成19年度は食道および頭頚部に発生する同時性、異時性多発扁平上皮癌の臨床病理学的解析とともに、われわれの研究室で解析を進めている新しい頭頚部扁平上皮癌の腫瘍マーカーである、Aldose-keto-reductase family protein 1B(AKR1B)の有用性について、特に早期癌、前癌病変の段階における有用性についてp53蛋白の発現と比較の上検討した。AKR1Bは様々な炭素化合物の還元反応に関与するが、消化管における解毒作用、副腎におけるステロイド代謝が知られている。癌との関係ではレチノイン酸の産生抑制、アポトーシスにも関与していることが報告されている。早期食道癌ESD切除例の検討では同時性多発性は13%,異時性多発例は14%に認められ、咽頭癌との多発は40%の症例に認められた。病理学的には上皮内病変に前癌病変であるDysplasia成分を含む多段階発癌を示すものが多くを占めた。AKR1Bの発現は食道癌症例の65%に認めたが、進行癌、早期癌、上皮内癌においても陽性率はほぼ同様であった。前癌病変であるdysplasia例では25%の症例に陽性所見を認めた。P53蛋白の発現との有意な相関関係は見られなかったが、陽性率はほぼ同様であった。喫煙歴、飲酒歴との明らかな相関は認めなかった。AKR1Bは頭頚部癌を早期の段階から認識するすくれたBiomarkerであり、p53蛋白の発現と組み合わせることにより、同時性、異時性多発癌をさらに効率よくスクリーニングできると考える。
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