研究概要 |
蛋白質翻訳後修飾は情報伝達、遺伝子発現、細胞分化や老化に深く関与している、特に、蛋白質中のアルギニン残基がシトルリン残基に変わるシトルリン化反応は蛋白質の本来の電荷や高次構造に著しい変化をもたらす。蛋白質シトルリン化反応は、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PAD)により触媒される。生体内には5種類の異なるアイソフォーム(PAD1,PAD2,PAD3,PAD4/5,PAD6)が存在し、活性発現にカルシウムイオンを必要とする。特に、PAD2は脳全体に広く分布し、他型PADは検出されない。今までにアルツハイマー病患者の脳では、シトルリン化蛋白質が多く存在することを明らかにした。本年度、以下のような興味深い結果を得ることができた。 シトルリン化蛋白質がアルツハイマー病発症の引き金となるか明らかにするため、神経細胞やグリア細胞を培養し、様々な酸化ストレスによるPADの活性化やシトルリン化蛋白質の出現を解析した。PADの酵素活性発現には、高濃度カルシウムイオンを必要とする。酸化ストレスは、一過的な細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こし、細胞死(アポトーシス)を誘導する。アルツハイマー病の原因の一つにも挙げられる。今回、神経細胞やグリア細胞に様々な酸化ストレスを与えたところ、これらの細胞で早期にPADが誘導され、細胞死が起こる以前にシトルリン化蛋白質が出現することがわかった。これらの結果は、シトルリン化蛋白質がアルツハイマー病の引き金となる可能性を強く示唆している。
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