当研究は、がん-間質相互作用に基づいて浸潤先進部のがん細胞で特異的に発現の増強もしくは減弱が見られる分子の発現を誘導しうる間質細胞を選び出し、そこで発現している遺伝子のcDNAライブラリーを作製して培養細胞に導入することによる発現アッセイを行い、発現誘導に関する<上流>分子を同定し、がん細胞悪性化に寄与している間質細胞の関与を明らかにすることを目的としている。 平成19年度は研究計画に基づき、具体的な系として、がん細胞としては口腔がん細胞HO1-U1細胞を、利用可能なマーカー分子としては、浸潤先進部において発現の増強が見られ、更にその発現が血行性の転移、さらには予後の有用なマーカーとなっているラミニン5γ2分子鎖を、発現誘導能を持つ間質細胞とし線維芽細胞MRC-5及びHFL-1を利用することにした。 マーカー分子であるラミニン5γ2分子の発現上昇を指標に、線維芽細胞より作成したcDNAライブラリーのスクリーニングを大規模に行い、発現を誘導しうる分子の探索・同定につとめた。その結果細胞外への局在が示された幾っかの候補分子遺伝子を得ることが出来たが、比較検討した結果、どの分子も間質細胞である線維芽細胞MRC-5及びHFL-1が引き起こす発現誘導の主要作用を代替できるほどの強い誘導活性を有していなかった。そこでHO1-U1がん細胞から作成したcDNAライブラリーからも同様のスクリーニングを行うことで、細胞内でマーカー分子の発現の変動を引き起こすシグナル伝達分子を探索しようと試み、更にはがん/間質細胞混合in vitro培養系より調整したmRNAを用いてのDNAチップによる探索も行うことで、この系において発現が大きく変動する遺伝子からの探索も行ってみたのだが、ここまでの解析結果からは、EGFやTGF-aといった既知の誘導分子を越える活性をもつ新規上流誘導分子を同定し、得ることは出来なかった。
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