背景・目的:ヒトの個性とがんの個性の相互関を明係らかにすることは、がんの予防(発がん感受性)や治療効果予測に重要である。肺腺癌を対象にして、がんの個性としてp53変異とLOH、MDM2の発現異常、EGFR変異を、ヒトの個性としてMDM2プロモーター領域の多型(SNP309)を検索し、肺腺癌の治療効果予測や発がん感受性に関与する因子を明らかにする研究を行った。 検索材料:1989-95年に手術切除された肺腺癌223例で、倫理委員会による研究承諾の元、凍結腫瘍組織からDNAを抽出し、遺伝子変異と多型はPCR・シークエンス法、ループハイブリッド法で、LOHはマイクロサテライト解析、MDM2発現は免疫組織化学で検索した。 結果:p53変異は94例(44%)、LOHは98例、MDM2高発現は55例(27%)に認めた。p53変異やLOHのある症例では有意にMDM2の高発現が少なく(其々p<0.01)、p53変異・LOH両者ともない症例(p53異常)ではそれ以外の症例に対し有意にMDM2が発現していた(p<0.01)。また、p53異常のない症例におけるMDM2SNP309の多型頻度は、G/G31%、G/T46%、T/T23%で、非肺癌者の多型分布と変らなかった。チロシンキナーゼ抑制剤の治療効果が高いとされるEGFR変異症例は94例(42%)で、うちp53変異がなくMDM2高発現例は26例(12%)に認められた。 結論:肺腺癌ではp53遺伝子異常がなくてもMDM2高発現によりp53機能が抑制されて発癌している症例があると考えられたが、その高発現にはMDM2の多型は関係していない。EGFRとMDM2抑制剤の併用により、前者単独治療より高い治療効果が得られる可能性のある腺癌が一割存在する。
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