研究概要 |
1.コラーゲンゲル内で3次元培養したラット肝細胞の樹枝状形態形成はTNF-αの添加により著明に促進された.2週間以上経過すると,これらの樹枝状細胞突起は複雑に吻合する管腔構造を形成し,これらの周囲は,細胆管と同様に基底膜で覆われていた.TNF-αは肝細胞のアルブミン産生,HNF4発現を低下させる一方,cytokeratin19発現を増加させた. 2.肝細胞の胆管上皮様分化に伴い,NF-κBおよびJNK,c-Junの活性化(リン酸化)が認められた.NF-κB特異的阻害剤はTNF-αの効果にほとんど影響しなかったが,JNK阻害剤はTNF-αによる樹枝状形態形成を強く抑制した.また,コラーゲンゲル内で形成された胆管様管腔構造においてリン酸化c-Junの核内陽性所見が認められた.さらに,四塩化炭素投与により誘導されたラット肝硬変で,再生結節を構成する肝細胞および増生した細胆管にリン酸化c-Junの著明な核内蓄積がみられた. 3.肝細胞特異的にDsRed2蛍光を発生するAlb-DsRed2トランスジェニックラットから採取した肝細胞をコラーゲンゲル内に包埋し,2-3週間TNF-α存在下で培養すると,DsRed2蛍光はほぼバックグラウンドレベルまで低下した.しかし,コラゲナーゼ処理によりゲルから細胞を分離,回収し,基底膜様物質(Matrigel)の上で培養すると,TNF-αを添加しない場合に,5日後から蛍光が回復し始めた. 以上より,TNF-αが肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換を促進するサイトカインであることが明らかになり,その細胞内メカニズムとしてJNK-c-Jun経路が重要であることが示唆された.また,肝細胞は,TNF-αにより胆管上皮様に分化転換した後でも,より生理的な細胞外環境に置かれた場合,本来の形質の少なくとも一部を回復しうることが判明した.
|