研究概要 |
生理的発生過程での臓器の形成には、RETの活性化に伴う正のシグナルと、これを抑制する負のシグナル間の調和が必要であるとされている。RETチロシンキナーゼのシグナルを負に制御する因子としてSproutyファミリータンパク質が重要であることが遺伝子改変動物を用いた研究で報告された。本研究では、細胞株レベルでRETチロシンキナーゼ下流におけるSproutyファミリータンパク質の役割を明らかにした。HEK293案細胞で検討したところ、Sproutyファミリータンパク質は、同程度にERKの活性を抑制し、p38,Akt,JNKなどの活性化には影響は認めなかった。ヒト神経芽細胞腫株TGWでは、GDNF刺激に伴いSprouty2のより高い発現誘導が観察された。さらにTGWにドミナントネガティブ変異を有するSprouty2を導入した結果、GDNF刺激に伴う突起伸長、増殖の著しい抑制が観察された。こうした結果よりRETチロシンキナーゼのシグナルを負に制御する因子としてのSprouty2の役割について細胞株レベルでも明らかにすることができた。この結果は、Cancer Science誌に報告した(Cancer Sci 98:815-821,2007)。次にSprouty2欠損およびRET遺伝子改変(Y1062F)間のダブルノックアウト・ノックインマウスを作成し器官形成における両者の役割を検討した。RET遺伝子改変(Y1062F)ノックインマウスでは胃から遠位結腸における神経細胞数が激減し巨大結腸症が観察される。一方Sprouty2欠損マウスでは、過去の報告のように胃から結腸近位部に至る神経細胞の数の増加が観察された。両者のダブルノックアウト・ノックインマウスでは、RET遺伝子改変(Y1062F)ノックインマウスに比して、胃までの神経細胞の減少に改善が見られた。この結果により個体内でSprouty2がRETチロシンキナーゼのシグナルを実際に制御してくること再確認できた。現在Sprouty2欠損マウスとの交配による発癌に対する影響の観察を進めている。本研究によりRETチロシンキナーゼにより制御される器官形成、発癌過程におけるSprouty2の役割の一端が明らかになった。
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